YUKATA


MUVEIL MAGAZINE
vol.31
MUVEIL SUMMER COLLECTION for YUKATA
INTERVIEW with Akane Kikuchi

和を楽しむMUVEIL SUMMER COLLECTION for YUKATA。昨年ご好評いただいた浴衣に新色・新アイテムを加え、日本の夏を涼やかに華やぐクラシカルなコレクションに仕上げました。




展開するのは、日本の伝統工芸のひと手間を感じていただける3アイテム。新アイテムとして加わった扇子は、1585年近江八幡にて創業された西川庄六商店にご協力いただきました。
MUVEIL MAGAZINE vol.31では、KiQのディレクターでありアーティスト活動もされている菊地あかねさんにインタビューをさせていただきました。





アメリカでデザインを学んだ後に、日本文化の探求のために芸者修行も積まれた菊地さん。新色の浴衣を着用いただいた彼女の凛とした佇まいがうっとりするほど美しいです。ご自身で和装を楽しむ機会の多い菊地さんに、浴衣の魅力や美しい所作についてを伺いました。



MUVEILの浴衣を実際に着ていただき、如何でしたか?


生地も着心地がよく、実際に袖を通すと鈴蘭が所作と揺れるように見え、美しく思いました。野の花を描いているような繊細なモチーフに惹かれますし、MUVEILらしさが出ていますよね。
最初に柄を拝見した時に可愛い印象を受け楽しみにしていました。着てみると甘さだけではなくエレガントさにも感動しました。 浴衣に合わせて、鈴蘭の小物入れと扇子も今回使わせていただきましたが、現代らしい色使いが印象的でした。

以前、デザイナーの中山さんと対談させていただいた際にMUVEILのドレスを着させていただいて、大人の女性を美しく見せながらチャーミングさを引き出すようなクリエイティブの姿勢と研究心に共感します。今回の浴衣を身につけて改めて中山さんの想像力と心の強さにも触れられ、良い経験をさせていただきました。







今回私物とコーディネートをしてくださいましたが、ポイントを教えてください。


今回の浴衣は紺色もあって、どちらも素敵で迷いました。私が選んだ白の浴衣は大人の女性らしさが表現され、着ていて楽しいです。ブランドの意味でもある「鈴蘭」が古典の雰囲気とともに描かれて、これまでになかったような図案ですね。
私物のJUDITH LEIBERの60'sのクラッチバッグと、老舗の傘屋・京都の辻倉さんの白の和傘を合わせています。辻倉さんが手がけられるイサムノグチの和紙のAKARIシリーズを私のスタジオでも愛用していて、傘も名入りで求めました。いずれも何年も使えるものとして、洋装の時も楽しんでいます。藍染めに合わせ、ネイルは濃紺に。ヘアはフィンガーウェーブ調に結い、少しモード感を加えています。







菊地さんご自身が考える和装の魅力はなんでしょうか?



衣服のルーツを探ると、西洋の「洋服」では上半身のラインを出し、肉体の造形が 演出・再現されますが、日本の現代の着物は直線的で、体と布地にゆとりがあります。ボディラインを存在させないようにする意図がユニークで、それは日本の建築様式や道具と調和されていたのだろうと感じます。
和装は、は時代を超え愛されるサステナブルな形式美と言えるのではないでしょうか。そして所作を自然と呼び起こしてくれるような世界で一つのファッションですよね。帯にはそっと香を忍ばせたり、季節のうつろい・色目にそってデザインができるところには柔軟性を感じます。
素材のバリエーションや織りも産地によって全然違い、その触感や帯結びによっても姿勢が変わりますし、まさに感覚的に楽しむことができますね。私は海外で発表を行うこともあり、和装はアイデンティティを表すことに重宝して います。舞の先生が、世界中のどんなドレスよりも日本人であれば和装を纏うことが説明なしに一層映えると教えてくださって、心根にささりました。



アメリカの建築家・ルドフスキーの「The Kimono Mind」(1965)では、日本女性の着物の美しい所作は洋服になるとそれらは全く違って勿体なく見えてしまうと伝えています。わかりやすい例だと着物だと歩き方が内股になることなどですね。また、当時は日本人の多くが着物との古典的な身体技法を残しつつも、物質文化だけが西洋化し、日本の精神構造や所作すら忘れられていくのではないかと説いていました。身体と生活に、齟齬が生まれたというか。
戦後から半世紀を過ぎた現代では、単に和装を纏うだけでは日本の感覚知は得ることはなかなかハードルが高くなっているのかもしれません。 古来持っていた感覚を翻訳し、伝えることは大切なのではと私自身感じていることの一つです。




日本の伝統文化を再構築し、発信し続ける理由の一つでもあるのですね。菊地さんは国内外に向けて活動されてますが、具体的に教えていただけますか?


私が主宰するKiQでも、先ほどお伝えした感覚的な日本人的感覚に着目し、デザインされたエクスペリエンスを制作しています。そこで私が組んでいるのが、あえて日本ではなくヨーロッパのクリエイターたちなんです。 彼らに、所作が何かを伝えるために言語化し、「所作とはこういうものなんだよ」 と、時に私が撮影した映像をもちいて対話を続けてます。
日本の精神性を国外のチームに伝え、理解してもらえるニュアンスや表現をどんどんアップデートするのです。 何かを作るために再変換し、英語でディレクションするという過程が、自分にとっ て上質なインプットとなっています。グローバルなコンテンツを作るとき、KiQでは国外に何を伝えるかいう目的を毎回明確にするのですが、日本人の思考だけでは創造し得ないことも多いと信じています。







菊地さんの所作の美しさにいつも見惚れてしまいます。和装の際は立ち振る舞いの優雅さが引き立つかと思いますが、気を付けるポイントなどございますか?


ありがとうございます(笑)。表現をするために研究中を続けています。 大切なポイントのひとつは、「自分の所作は誰かのために創造できる」という感覚でしょうか。能の仕舞や千利休の茶道をはじめとし、日本舞踊にも日本の「所作美」が宿っています。それは常に誰かへの思いからなる、身体的な動きだと思うのです。
KiQでは「所作」を海外に伝える際、単に「Shosa」とせず「Graceful Simplicity」と訳しています。 直訳すると「しとやかな単純さ」なのですが、所作が「誰かに対する」という目的意識と思いやりの心が常にあることが実はとてもシンプルなんです。それをしとやかにデザインする心を身につける、ということにつながります。



もう一つのポイントは、「美しいと感じるものに対して、探究心を持つ」ことでしょうか。私はアメリカのストリートカルチャーから花街のような伝統の世界というコントラストの強さを経験し、良い意味でその違いは一目瞭然でした。
和装のときは、昭和の女優の気持ちになっています(笑)。昭和の映画は、撮影者の意図となるカメラムーブメントが少なく、定点で長いシーンが表現されることもあり、所作をじっくり観察できるんですよね。 心理的影響として、ちょっと覗いてるような感覚になるような撮り方です。 溝口健二監督や小津安二郎監督の、当時の女性にフォーカスを当てた映画は、インスピレーションとしておすすめです。
手元のあしらいや、振り向き際の角度などは、舞の動きや茶道のお点前がベースにありますが、 江戸末期から明治時代の様々な年代や年齢、階層の女性を描いた浮世絵集である月岡芳年の「風俗三十二相」などで職業や感情での所作の変化を見つけたり、竹久夢二の描くアンニュイな色香の雰囲気や表情も好きで見ますね。







菊地さんの所作に対する研究心の強さに感動してます。


「日本以外の所作を発見・比較すること」も行なってきました。例えば「8 Mile」ではラッパーのエミネムがリアルなヒップホップの軸で貧困・人 種差別を超えた表現・生きるための「佇まい」を演じていますし、 映画「Burlesque」や、パリの「Crazy Horse」などでの映画的な見せ方は、高揚感に溢れるセクシーな「仕草」が垣間見れます。 ジャック・タチの「ぼくの伯父さん」では、言葉が少なくともフランスの当時のア メリカナイズされた生活の様式が、愉快な「振る舞い」とともにわかりやすく描かれています。
喜劇の中の所作美ですね。東南アジアやアフリカの人々に触れたときは、また日本とは違う温かい「供応」を感じる。 いつの時代にも「所作」に近しいコミュニケーションが世界には存在し、日本の独特なそれと比較し、アイデンティティとして見つける。 世界を知って、自然体を身につけることは楽しいです。



私の表現の中では、毎回「行わないこと」を決めるのですが、ミニマリスティックや禅といった言葉が、特に欧米では日本らしさを彷彿させるワードにあたります。 ただ、日本人の感覚と欧米人が思うそれとは、全く異なっていることも多いです。 冷たさが先行することや、実際にはそれが好まない人も多いので、そのまま表現することを避けています。
なぜなら、より自然でヒューマニティとともに変換し、混沌さを保つありのままの日本を伝えることがリアルに感じるからです。あたたかな感情や人々の所作を引き出すことも、理想とする伝え方の形式かも知れません。 所作も一言では表せないことですが、そのようなテーマを見つけては伝え続けることが役目と感じます。




今後ご予定されている活動などございましたら、教えてください。


「KiQ」というクリエイティブプラットフォームには 「Unspoken Experience(ことばにならない体験)」という独自のテーマを持たせています。 KiQとしては、今夏に日本初のエクスペリエンスを米国企業と共同で発表予定です。
日本らしいテーマのプロジェクトとしては、京の懐石料理の世界をテーマに新たなエクスペリエンスをデザインしています。ミシュランを取得された店主とのコラボレーションで、大人だけではなくこどもたちにも伝えたいと考えていて、私達自身も楽しみです。

個人としては海外からオファーがあり、国外に文化を伝える英語圏でのレギュラー番組をプロデュース・出演する予定です。 制作活動やアウトプットだけで伝わらない、伝統とテックが調和するクリエイティブライフをドキュメンタリーとして制作しています。
映像だけでなく、音声メディアでも世界中からゲストを招く形で、オランダのアーティストたちと企画しています。






浴衣という一つのプロダクトから、日本文化そしてその所作について深く語っていただいた菊地あかねさん。夏の情景を彩る浴衣を纏い、今一度日本文化について考えてみるのもいいかもしれません。
浴衣の発売を記念して、伊勢丹新宿店にてポップアップを開催する予定です。浴衣アイテムとともにすずらん柄小物アイテムを展開いたします。

【伊勢丹ポップアップ】
会期:2021.6.23 - 6.29
会場:伊勢丹新宿店 本館7階 呉服
営業時間:午前11時 - 午後7時
※諸般の事情により、営業日・営業時間、予定しておりましたイベントなどが変更・中止になる場合がございます。
必ず事前にホームページを確認してからご来店ください。


最後までお読みいただきありがとうございました。


菊地 あかね
KiQ ディレクター / エクスペリエンスデザイナー
https://kiq.ne.jp/
Instagram
@akane_kiq
@shosa_akane

宮城県生まれ。2016年Akane Kikuchi Designを設立。2020年、KiQ主宰。 18歳でデザインを学ぶためにNY移住後、自国への探究として芸者修行を行う。 座敷での立ち振る舞いやしきたりの中の心得に感化され、華道、茶道、上方舞、書 道の文化を学ぶ。
これまで国内外でエクスペリエンスやインスタレーション、空間デザインを発表。 人種や言語感覚を超えた瞬間との対峙、日本古来から存在する暗黙知の世界の意味づけ、自らのフィルタを通した再発見の共有をテーマに表現を行う。 フィジカルとデジタルの垣根を超えた、独自の感性の旅を提言。