WORKING PROGRESS



MUVEIL MAGAZINE
vol.74
WORKING PROGRESS
ノスタルジーに出会う寄り道

デザイナー・中山路子がコレクション制作期に
出向く場所がいくつかあります。
MUVEIL vol.74ではそのひとつである浅草・かっぱ橋道具街へと同行しました。お気に入りのお店を訪れながら、中山が衣服をつくりあげるにあたって大切にしていることを紐解きます。



浅草・かっぱ橋は「キッチンタウン」と呼ばれる、料理器具に特化した問屋街。 およそ800メートルの道に、食器から調理・製菓道具、食品サンプルなどの専門店が100以上連なります。

「かっぱ橋は、MUVEILをはじめる前から通っていました。コロナの影響でなくなったお店もたくさんありますが、20年以上足を運び続けています。」

小さな店舗に陳列された調理器具をたくさん見ていると、おままごとをしていた頃の記憶が戻ってきて胸が高鳴ります。



「調理器具の問屋街ですが、アイデアの宝庫です。菓子道具屋さんで見つけたゼリーの型を使ってボタンを作ってみたこともあります。アップデートされていくものが多い中でかっぱ橋にはいつまでも変わらないものがちゃんと残っていてときめきが止まらないところ。足を運んでみないと見つからなかった発見が常にあるので、この寄り道を大切にしているんです。」

このお店ではこれ、あれはこっちのお店と中山が語る場所はどこも昭和の香りが残っていてタイムスリップしたような気分に。そんな中でも最近よく通っている店舗に行ってみるとまさしく問屋で、MUVEIL要素が見つからなさそうな佇まいでした。



「このお店はノスタルジックが詰まっていてよく可愛いモノを見つけています。お刺身などを飾るプラスチックのお花がとっても可愛くて。一袋買って帰っていろいろと試行錯誤していった中でバッグができました。お花やモチーフが季節によって変わっていくので訪れる度にチェックしています。」



情報量の多い店内で迷わずに見つけてくる可愛いものたち。手に取ると何十年も変わってないであろうパッケージやロゴデザインがロマンティックで、心を鷲掴みにされます。
店内の奥にずんずんと突き進み下の段から中山が手に取ったのは、ビニールレースのテーブルマットでした。

「このビニールレースを見つけたときには、良く残っているなと感動しました。まさしくおばあちゃん家の応接間に置いてあるようなテーブルマット。持って帰ってすぐに、バッグを作ってみました。MUVEILで人気商品となったのを知って手に取ってくださった方も私と同じような気持ちになってくれたかなと嬉しかったです。」



それからも駄菓子屋さんやテーブルクロス屋さんなどぐるぐる回っては素材を集める中で、可愛い!と足を止めたのは椅子の問屋街の前に飾られていたお花柄のパラソル。上品な大判の花柄がレトロで懐かしき海の景色と再開したような気分になりました。

「もちろんネットで検索したり資材屋さんに依頼したりすることもします。それは、確実に欲しいものを見つけるにはありがたいのですが、自分が思い描いていたものを超えることはできないんです。このパラソルは検索しても出てこないし想像もしていなかったときめき。これだから寄り道って楽しいですよね。」



かっぱ橋をまわったあとはレモンパイが絶品のお店に寄って、蔵前方面へ。 今度はリボンとバッグの資材屋さんを回ります。世界のトップブランドも使用するリボンメーカーのショールームも必ず訪れるお気に入りの場所。

「世界に誇る日本製のリボンは、色もハリ感も編立ても全て美しくて見に来ます。勿論カタログもあるのですが、やっぱりお店に行ったときに見るとよりその素晴らしさがよくわかります。いつでも憧れを抱ける場所です。」



うっとりする店内を後にして、バッグの資材屋さんでは取っ手をくまなく探します。

「バッグの取手を見つけるのがどんどん大変になっていて。どこかレトロだったり、アンティークな雰囲気のあるものは特に生産されなくなった可能性も高いので直接回っています。そういった資材はカタログに掲載されていないのでとにかく問屋さんに足を運んで探し出しているんです。」

お目当ての取っ手は見つからなかったですが、新たな素材とアイデアを抱えてアトリエへ。戻ったら早速試作づくりに取り掛かるとのこと。

「手を動かすことを今大切にしています。試作を見せるのが企画チームや工場さんとの一番のコミュニケーションツールになるので。実際に作ってみたらどこが難しいのか再現できるのかもわかりますし、悩んだときにいろいろと試してみた中でまた新たなときめきを見つけることもできます。今回持ち帰ったものはまだどうなるのかわからないのですが、生かせる方法を見つけるのが楽しみです。」




MUVEIL MAGAZINE vol.74はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。

2023.4